「わずか数時間の差」が、発明者の名声と企業の巨大な富を分けたとしたら……。
特許の世界には、そんなドラマチックで、かつ冷徹な歴史上の出来事が実在します。
天然染料として有名な茜の主成分であるアリザニンの製法特許は、わずか一日の差で、英国の化学者パーキンではなく、当時農業国であった独国のグレべに与えられました。独国の染料工業の興隆はこの特許権取得が大きく寄与したといわれています。
また、発明家ベルが米国特許局に電話の発明の出願をしたのに、わずか数時間遅れて発明家グレーが同じく電話の発明を出願しました。このわずかな時間の差で、今日、電話の発明家といえば、多くの人はベルの名前を思い浮かべることとなったといわれています。
このように、同じ発明について複数の出願があった場合、どちらが先に発明したかに関わらず、「先に特許庁へ出願した者(出願日が早い方)」に権利を付与する制度を「先願主義」といいます。先願主義においては、先に出願をした方を先願、後に出願した方を後願といいます。
一方、最初に発明をした発明者に権利を与える「先発明主義」という制度があります。この制度の下では、同じ発明をした者が二人いた場合、出願日にかかわらず、先に発明した者が特許を受ける権利を有することとなります。
最初に発明した者に権利を付与する「先発明主義」は、一見して、特許制度の趣旨に適うように思われます。
しかし発明日の立証が困難であること、権利成立後に新たな発明者が現れ事後的に権利が不安定になる場合があること、先に発明した者を特定する手続が煩雑であること等の欠点があります。
これに対し、「先願主義」は、出願日の先後が明確であり、権利の安定性に優れているため、かつて「先発明主義」を採用していた米国も含め、現在では主要国の全ては「先願主義」を採用しています。
先願主義では、自分が最初に発明しても、他人が先に出願してしまうと特許を受けることができなくなります。このため、発明が完成したら、出願手続きに時間をかけず、できるだけ早く出願することを心がける事が大切です。
先願主義を採る我が国においては、如何に早く出願するかが企業の特許戦略の大きなポイントといえます。